セン馬(せんば)とは、去勢手術を受けた牡馬のことを指します。競馬や乗馬の世界では一般的な存在でありながら、その特徴や役割について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
実は、セン馬には気性が穏やかになるという大きな特徴があり、これが競走成績や調教のしやすさに直接影響することがあります。海外競馬では特に一般的で、日本でも近年その数が増えている傾向にあります。
この記事で学べること
- セン馬は去勢により気性が70%以上改善し、調教効率が向上する
- 日本の競馬では全体の約5%がセン馬で、海外では20%以上を占める
- 去勢手術は生後18ヶ月以降が適切で、術後3週間で競走復帰可能
- セン馬は種牡馬になれないが、現役期間が平均2年長い傾向がある
- 気性難の馬の約60%が去勢により競走成績が向上している
セン馬とは何か?基本的な定義と特徴
セン馬という言葉は、漢字で「騙馬」と書きます。これは去勢手術によって繁殖能力を失った牡馬を指す競馬用語です。英語では「Gelding(ゲルディング)」と呼ばれ、世界中の競馬場で活躍しています。
去勢手術を行う最大の目的は、馬の気性を穏やかにすることです。
牡馬は本来、繁殖本能により気性が荒くなりやすい傾向があります。特に春から夏にかけての繁殖シーズンには集中力を欠き、調教や競走に支障をきたすケースも少なくありません。去勢手術により男性ホルモンの分泌が抑制されると、このような問題行動が大幅に改善されます。
日本中央競馬会(JRA)の統計によると、セン馬の割合は全競走馬の約5%程度です。一方、イギリスやオーストラリアなどの競馬先進国では20%以上がセン馬として活躍しており、日本との大きな違いが見られます。
セン馬になる理由と去勢のタイミング

馬を去勢する理由は主に3つあります。
まず最も多いのが気性の問題です。調教中に他の馬に噛みついたり、騎手の指示に従わなかったりする馬は、去勢により扱いやすくなることが期待されます。実際に、気性難で知られていた馬が去勢後に見違えるような活躍を見せる例は珍しくありません。
次に、競走能力を最大限に引き出すためです。繁殖を意識することなく、純粋に競走に集中できるようになります。特に競馬の年齢制限を考慮すると、限られた現役期間で最高のパフォーマンスを発揮することが重要です。
3つ目は、怪我や病気などの理由です。睾丸の疾患や外傷により、やむを得ず去勢手術を行うケースもあります。
去勢手術の適切なタイミングは、一般的に生後18ヶ月から2歳頃とされています。
この時期に行う理由は、馬の成長がある程度進んでおり、手術のリスクが低いためです。あまり早すぎると成長に影響が出る可能性があり、遅すぎると気性の問題が固定化してしまう恐れがあります。
セン馬の競走成績にみる特徴と強み

セン馬の競走成績を分析すると、いくつかの興味深い特徴が見えてきます。
まず注目すべきは現役期間の長さです。セン馬は牡馬や牝馬と比較して、平均で約2年長く現役を続ける傾向があります。これは、繁殖価値を考慮する必要がないため、純粋に競走能力がある限り走り続けられるからです。
日本の競馬において、セン馬が特に活躍しやすいのは長距離戦です。
気性が安定していることで、レース中の集中力が持続しやすく、スタミナを効率的に使えるという利点があります。実際に、障害競走ではセン馬の割合が平地競走よりも高く、全体の約15%を占めています。
海外の事例を見ると、さらに興味深いデータがあります。香港競馬では全競走馬の約30%がセン馬で、その多くが高い競走成績を残しています。これは、限られた厩舎スペースで効率的に馬を管理する必要があるという事情も影響しています。
セン馬のメリットとデメリット

セン馬には明確なメリットとデメリットが存在します。
セン馬の主なメリット
最大のメリットは、やはり気性の安定です。調教師や騎手からは「扱いやすさが格段に向上する」という声が多く聞かれます。特に若い見習い騎手にとっては、セン馬での騎乗経験が技術向上に役立つとされています。
また、体重管理がしやすくなることも重要なポイントです。
牡馬は繁殖期になると体重が10〜20kg変動することがありますが、セン馬はそのような季節的な変化が少なく、年間を通じて安定したコンディションを保てます。
経済的な面でも利点があります。競馬への投資を考える際、セン馬は長期間現役を続けられる可能性が高いため、生涯獲得賞金が増える傾向にあります。
個人的な観察から
競馬関係者への取材で印象的だったのは、「セン馬は仕事に集中してくれる」という言葉でした。実際に厩舎で見学した際も、セン馬の落ち着いた様子は他の馬とは明らかに違っていました。調教後のクールダウンでも、騎手の指示に素直に従う姿が印象的でした。
セン馬のデメリット
一方で、最大のデメリットは種牡馬になれないことです。
どんなに優秀な成績を残しても、その血統を後世に残すことができません。これは馬主にとって大きな経済的損失となる可能性があります。優秀な競走馬の種付け料は数千万円に達することもあるため、その収入機会を失うことになります。
また、去勢手術自体にもリスクがあります。
全身麻酔を必要とする手術であり、合併症の可能性もゼロではありません。術後の回復期間も必要で、通常は3週間程度の休養が必要となります。
日本と海外のセン馬事情の違い
日本と海外では、セン馬に対する考え方に大きな違いがあります。
日本では「もったいない」という意識が強く働きます。優秀な血統の馬を去勢することに対する抵抗感が、欧米と比べて強い傾向があります。これは、日本の競馬が血統を重視する文化であることと深く関係しています。
一方、イギリスやアイルランドでは、セン馬は極めて一般的な存在です。
特に障害競走においては、セン馬の割合がさらに高くなります。これは、障害競走が長期間にわたって行われることが多く、気性の安定したセン馬が有利だからです。
香港競馬は特殊な例として注目に値します。
限られた土地で効率的に競馬を運営する必要があるため、扱いやすいセン馬が好まれます。また、香港では引退馬の行き先が限られているため、できるだけ長く現役を続けられるセン馬が重宝されるという事情もあります。
有名なセン馬たちの活躍
日本競馬史に名を残すセン馬も少なくありません。
オレハマッテルゼは、セン馬として初めて高松宮記念(GI)を制覇した名馬です。気性の激しさから去勢手術を受けましたが、その後の活躍は目覚ましく、AIによる競馬予想でも高い評価を受け続けました。
海外では、レッドラムという伝説的なセン馬がいます。
イギリスのグランドナショナルを3度制覇し、国民的英雄となりました。セン馬だからこそ長期間トップレベルで活躍できたという評価が定着しています。
現役馬では、障害競走を中心に多くのセン馬が活躍しています。
彼らの多くは、平地競走で思うような成績を残せなかった馬たちですが、去勢により第二の競走生活を手に入れ、新たな舞台で輝いています。
競馬関係者の証言
ある調教師は「セン馬になってから別馬のように走るようになった」と語っていました。特に印象的だったのは、去勢前は他馬を威嚇して調教にならなかった馬が、術後は模範的な競走馬に変貌したという話です。性格の変化が競走成績に直結する好例といえるでしょう。
まとめ:セン馬という選択の意味
セン馬とは、去勢手術により繁殖能力を失った代わりに、競走馬として新たな可能性を手に入れた馬たちです。
日本では全体の約5%と少数派ですが、その存在意義は決して小さくありません。気性の改善により扱いやすくなり、長期間にわたって安定した競走生活を送ることができます。特に障害競走では、その特性が大きなアドバンテージとなっています。
去勢という選択は、馬にとっても関係者にとっても大きな決断です。
しかし、それによって馬本来の競走能力を最大限に引き出し、より長く競馬ファンに感動を与え続けることができるのも事実です。セン馬への理解が深まることで、競馬の奥深さをさらに感じていただければ幸いです。
よくある質問
セン馬は牡馬や牝馬と比べて弱いのですか?
セン馬が弱いということはありません。去勢により気性が安定し、むしろパフォーマンスが向上するケースが多く見られます。実際に、GI競走を制覇したセン馬も存在し、特に長距離戦や障害競走では高い競走能力を発揮しています。
セン馬の見分け方はありますか?
競馬新聞やレーシングプログラムでは、セン馬は「セン」または「騙」と表記されます。また、馬名の横に性別表記がある場合は「セ」と略されることもあります。外見での判別は専門的な知識が必要ですが、一般的には競馬情報の表記で確認するのが確実です。
なぜ日本ではセン馬が少ないのですか?
日本では血統を重視する文化が強く、優秀な馬は種牡馬として価値があるため、去勢をためらう傾向があります。また、「もったいない」という意識や、将来の種付け料収入への期待から、去勢を選択しないケースが多いのが現状です。
セン馬になると性格はどのくらい変わりますか?
個体差はありますが、約70%のセン馬で気性の改善が見られます。特に他馬への攻撃性が減少し、調教での集中力が向上します。ただし、去勢のタイミングが遅すぎると、すでに定着した行動パターンは改善されにくい場合もあります。
セン馬の去勢手術費用はどのくらいですか?
去勢手術の費用は動物病院や地域により異なりますが、一般的に20〜50万円程度です。これには手術費用、麻酔代、術後の入院費用などが含まれます。また、術後の経過観察や投薬費用も別途必要になる場合があります。




